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フジテレビにスポンサーは戻るのか?企業広報担当者が明かす“CM一斉撤退”に至った本音や今後【調査情報デジタル】

経済
2025-03-22 07:30

フジテレビの一連の問題をめぐって調査を続けている第三者委員会の報告書とりまとめの目途となっている3月末が迫ってきた。この問題に火がついて以来続く、フジテレビのオンエアから企業CMがほとんど消えるという異常事態はこの報告書を機に解消に向かうのか。企業側の本音などを取材してきたTBSテレビ報道局経済部の片山薫デスクが考察する。


日本のテレビ史に残る“企業CMの一斉撤退”

マッチ(近藤真彦さん)が聴力検査を呼びかけ、ゆうちゃみが災害への備えを訴える…。1月から続く、フジテレビの「ACジャパン」へのCM差し替え。放送を見るたびに、複雑な感情に襲われる。公共性の高いCMはどれも面白く素晴らしいのだが、テレビ局員にとっては「まだスポンサーはフジテレビを認めていない」という事実を思い起こさせるからだ。


中居正広氏の女性トラブルに端を発した、フジテレビでの“企業CM一斉撤退“は日本のテレビ史の中でも最大級の出来事の1つとなってしまった。この前代未聞の現象は、一体なぜ起きたのか。企業側のどんな判断があったのか、これまでの取材を基に、まずその背景を整理しておきたい。  


 CM停止は「“会見”前にほぼ決めていた」

日本生命、トヨタ自動車などの巨大スポンサーが、提供番組だけでなく、フジテレビ全体へのCM出稿をすべて見合わせるというニュースが飛び込んできたのは、今年1月18日。フジテレビの最初の“パラパラ漫画のような会見“の翌日だった。


当日の担当デスクだった私は、正直なところ、すぐには事態を飲み込めなかった。「一部の番組提供を見合わせるならまだしも、フジテレビ全体のCMを見合わせるなど、即断できることではないはずだ…」。しかし、私の認識は甘かった。


週明け、想像をはるかに超えるスピードで事態は悪化していく。「見合わせ企業は10社」「20社」「いや、30社だ…」。時間を追うごとに原稿を書き換えざるを得なくなった。


後から聞けば、多くの企業はフジテレビの最初の会見の前に、水面下で対応を検討していたという。港社長(当時)のテレビカメラ抜き会見は、“最後の一押し”に過ぎなかったようだ。 


大手企業A社の広報担当者は、取材にこう語った。


「フジテレビの最初の会見の数日前には、弊社の人権方針に照らして差し止めの方向で社内の協議はほぼ終わっていました。フジテレビの会見はダメ押し程度。広告会社とも方向性は共有していましたし、他の企業も差し止め方向で動いていると聞いていました」


人権デューデリジェンスと「横並び」意識

 その背景には、取引先にも幅広く人権順守を求める「人権デューデリジェンス」(企業が自社の人権リスクを評価し、防止・軽減策を講じること)を企業がすでに実践し始めたことがある。


一昨年表面化した旧ジャニーズ事務所の性加害問題で、すでにCMを停止するなどの経験があり、企業にはその実践が強く求められるようになっていた。


「人権方針は昔からありましたが、行動という意味で実際に公に動いたのは旧ジャニーズ問題が最初だったと思います」(A社)


この企業は常時、SNSのモニタリングを行っていて、「なぜこのタレントを使っているのか」、「このCMは不適切ではないか」といった批判の声をチェックしているという。  


こうした人権意識の高まりを動機とする企業がある一方で、「経団連のトップを輩出する日本生命の動きは気にした」、「トヨタさんがやるならうちも」という横並び意識、同調圧力が働いた企業が多いのも事実だ。


別の企業(B社)の広報担当者は、「業界的な横並びですよ。対応が遅れると、批判されますから」と本音を語った。他社の動きを窺いながら、難しい決断を迫られた企業も多いことが伺える。 


フジテレビの対応が招いた危機  

ただ、事態をより深刻化させたのは、フジテレビ自身の一連の対応だった。 当初、フジテレビは社長の定例記者会見の延長として、テレビカメラを入れない形で説明を行った。この対応にC社の広報担当者は、こう憤った。  


「うちが不祥事を起こしたら、フジテレビは真っ先に社長会見を求めてくるだろう。なぜ、自分たちは会見を開かないんだ?」  


テレビ局は企業の不祥事を追及する。しかし、いざ自分たちのこととなると、途端に口を閉ざす。そんなダブルスタンダードが、スポンサー企業の不信感を増幅させた。 

批判を受けて、翌週行われた異例の10時間の“やりなおし会見”。フジテレビの港社長(当時)は、「人権意識が足りなかった」と謝罪。コンプライアンス部門への情報共有がなかったことなど「ガバナンスの欠如」を認めざるを得なかった。  


また、「人権侵害の可能性」を認識しながらも、中居氏の出演番組を存続させていた事実が明らかになった。フジテレビの親会社フジ・メディアHDは2023年に人権方針を掲げていたが、実践に至っていなかったといえよう。


この対応は、被害者女性へのケアよりも、人気タレントとの関係を優先させたのではないかという疑念をスポンサー企業に抱かせた。


D社の広報担当者は、こう言い放った。


「まさかあそこまで、タレント優先とは驚いた。人権侵害の可能性を認識していながら、なぜ番組を続けるんだ?理解に苦しむ」


“物言うスポンサー”の登場  

こうした中で、注目すべきはキリンホールディングスの動きだ。フジテレビが改めて開いた“やり直し会見”を受け、翌日、フジテレビに対し、「人権侵害に対しての疑義が解消されたわけではなかった」と指摘。その上で、広告代理店を通じて、①第三者委員会による調査への全面的な協力および迅速かつ的確な情報開示、②調査の結果、人権侵害があった場合、被害者への救済や原因の解明、再発防止策の策定などを行うよう、フジテレビに申し入れたのである。“物言う株主”ならぬ、“物言うスポンサー”の登場だ。


スシローの過剰反応~世論・SNS対応の難しさ~ 

一方、今回の騒動では、SNS上の反応を過度に意識した企業の対応が、かえって混乱を招いたケースも見られた。その一例が、大手回転ずしチェーン・スシローの対応だ。


笑福亭鶴瓶さんが1月下旬週刊誌で、中居氏のトラブル直前に中居氏の自宅で開かれた食事会に同席していたと報じられたことを受け、スシローは公式サイトから鶴瓶さんのCM動画や画像を一時的に削除した。


しかし、その後、「過剰反応だ」という批判が寄せられることになり、スシローも鶴瓶さんに謝罪し、CMを再開した。この一件は、企業がSNS上の炎上リスクを恐れるあまり、過剰な対応を取ってしまうことの危険性を示している。 


こうした、SNS上での批判への企業側の敏感さは、特定の個人や組織を非難し、排除しようとする「キャンセル・カルチャー」の傾向が助長していることも否定できない。


E社の宣伝担当者は、「フジテレビさんがどんなに変わろうと、消費者が納得してくれなければ、CMを再開しても逆風にしかならない」と、世間の反応への懸念を口にする。 


第三者委の報告書とフジテレビの対応を注視  

3月21日現在、多くのスポンサー企業がフジテレビからCMを降ろしたままだ。広告関係者によると、1月末にフジ側が想定していた以上にCMキャンセルが出ているようだ。


スポンサー企業側は、まもなく提出される見込みの第三者委員会の報告書の内容で何が指摘されるのか、そして、フジテレビが被害にあった女性への人権上の対応の問題や経営陣のガバナンス問題などについて、どのような改善策を示すのかを注視している。 


F社の広報担当者はこう語る。


「第三者委員会の報告書の内容次第。納得できる説明と再発防止策が示されなければ、CM再開は難しい。また、再開となれば、その根拠も求められる」


広告関係者によると、複数のスポンサー企業からは、「フジテレビの経営陣の刷新」や、「財界幹部からの容認発言」が再開の条件として必要だとの声も上がっているという。スポンサーの全面復帰への道のりは険しそうだ。


ただその一方で、「フジテレビとは長い付き合いがあり、いい番組なら提供したい。あまり長く見送りを続ければ、スポンサー枠が維持できなくなる」(G社)と提供再開を模索する企業があるのも事実だ。


今回の問題は、人権をめぐるメディアとスポンサーのあり方、テレビの今後に大きな問いを投げかけている。現代の企業は、人権デューデリジェンスを徹底し、それをどう実践していくのか、問われている。


第三者委員会の報告書とともに示されるであろう新生フジテレビの対応は、テレビ業界全体にも影響を与える可能性が高い。視聴者にとって信頼できる、価値あるメディアが生まれるための第一歩となると信じたい。


〈執筆者略歴〉
片山  薫(かたやま・かおる)
TBSテレビ報道局 経済部デスク
1978年生まれ
2001年TBS入社 情報番組・報道番組のディレクターなどを経て
2009年に経済部記者
2015年に経済部デスク
その後、朝の情報番組のプロデューサーやnews23編集長などを経て
2023年から4度目の経済部デスク 


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

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