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「アラスカLNG開発計画」日本の参加は?総事業費“6兆円超”で採算は取れるのか【Bizスクエア】

経済
2025-07-09 06:30

アラスカを縦断するパイプラインを建設し、LNG液化天然ガスを日本などに輸出する壮大な構想。現地では期待が膨らむ一方で、採算を疑問視する声も。


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「エネルギー安全保障」「輸送」でメリット主張

北極圏に位置するアラスカ北部のプルドーベイは、取材した6月でも気温は氷点下。立ち入りには関係者のエスコートが必要だが、今回、アメリカのエネルギー省が一部のメディアに取材を許可した。


バスに乗って向かった先は、フェンスに囲まれ凍結した雪が残る広大な“天然ガスの生産拠点”だ。
石油に加え大量の天然ガスが眠るエリアで、現在使われている石油のパイプラインに並行する形で“1300km”の天然ガスパイプラインを建設する予定だという。


この日は、トランプ政権でエネルギー政策を担当する閣僚が3人全員揃って訪れ、“大規模な開発をアピール”する式典を開いた。


バーガム内務長官:
「同盟国にとっても繁栄の土台になる。我々が十分なエネルギーを確保し同盟国に輸出すれば、“彼らは敵対国から購入する必要がなくなる”


トランプ政権は天然ガスを液化し、日本や韓国、台湾などへの輸出を目指している。


ロシアからLNG(液化天然ガス)を輸入している日本にとって同盟国であるアメリカから調達を増やすことは「エネルギー安全保障上プラス」と主張し、LNGの購入や共同開発を呼びかけている。


また、アラスカは中東などに比べ、日本と距離的に近いことから「輸送にかかる費用や時間を削減できる」としている。


式典には、韓国政府の高官や日本の経済産業省の幹部らも招かれた。


松尾剛彦 経済産業審議官:
「天然ガスの調達の多様化を図っていくことは非常に重要。アラスカLNGプロジェクトの詳細なり現在の検討状況について、さらに詳しい情報に接することができれば」


トランプ氏“肝いり”プロジェクト

この計画は、1月の就任演説で「掘って掘って掘りまくれ!」と話し歓声を浴びたトランプ氏の肝いり。


アラスカの環境保護のため石油や天然ガスの掘削を禁止したバイデン政権下での規制を就任初日に撤回。開発を全面的に推進する大統領令に署名した。


またトランプ氏は、アラスカからLNGを輸出すれば貿易赤字の削減に効果が大きいとみていて、繰り返し言及するプロジェクトとなっている。


トランプ大統領(3月・施政方針演説):
「我が政権はアラスカで世界最大級の天然ガスパイプライン開発に取り組んでいる。日本や韓国などがパートナーになりたがっている」


2月に行われた日米首脳会談では、アメリカから日本へのLNGの輸出拡大で合意。トランプ氏は、アラスカで日米の共同事業立ち上げなどを目指す考えを示していた。


台湾は“積極姿勢”アピール

アラスカ最大の都市・アンカレッジで開かれたエネルギーの国際会議でも、LNGプロジェクトは主要な議題に。
この会議にもトランプ政権のエネルギー閣僚3人がそろって出席し、アピールに余念がない。


ライト エネルギー長官:
「これは世界に供給するためのガスパイプラインの建設だ。勝利するのはアラスカだけではない。アメリカ、そして世界が勝つのだ」


日本と同じく、プロジェクトへの参加を呼びかけられている台湾。
3月には公営エネルギー企業がアラスカのLNGの開発と購入に向けた意向表明書に署名していて、この日も政府高官が登壇し、積極姿勢をアピールした。


台湾総統府 秘書長:
「アラスカは我々の取り組みの中心にある」


取材した涌井文晶記者も「台湾の当局者とも話したが非常に熱量が高い」と話す。


ワシントン支局長・涌井記者:
「台湾としては中国の圧力が高まる中、安全保障の面も睨みアメリカと連携を強めたいことがあり、既にLNGの輸入に占めるアメリカ産の割合を現在の1割から3割に増やす方針も打ち出している。一方で、韓国は日本と似たようなスタンスをとっていて、コストの面で“採算が取れるのか”かなり慎重に構えている」


過去に頓挫も…日本の参加は?

実はアラスカでは、過去に何度となく同様のLNG開発プロジェクトが浮上し、頓挫してきた歴史がある。


アジアへの輸出には、アラスカ北部から太平洋に面した南部までガスを送るパイプラインを建設する必要があるが、その長さは実に1300km。東京と沖縄本島を結ぶような距離だ。


しかも通り道には3つの山脈に加え数百の川があるという厳しい環境で、440億ドル(6兆円超)という“巨額の費用”がかかると指摘されている。


これは通常のLNG開発コストの2倍以上とも言われ、日本企業からは“民間企業が採算をとれるビジネスとして成立しないのでは”という疑問の声も出ている。


松尾剛彦 経済産業審議官:
「実際にLNGがどういうコストでいつごろから提供されるようになるかが、企業からすれば大きな判断ポイントとなる」


一方、プロジェクトを主導するアメリカのエネルギー企業『グレンファーン』は、地元アラスカでのエネルギー需要の高まりもあり、「アメリカ国内の他の地域に比べても安い価格の天然ガスを安定的に生産できるプロジェクトになる」と強気だ。


『グレンファーン』アダム・プレスティジさん:
「アラスカLNGプロジェクトは、他のどのプロジェクトからLNGを購入するより20~35%コストが抑えられる予定」


グレンファーンは6月に、アメリカや日本、韓国などの50の企業が参画に関心を示していると発表した。


期待膨らむ「パイプライン出口」の街

トランプ政権も、“2031年にもLNGの生産開始”という強気のスケジュールを描き、アラスカではプロジェクトへの期待が高まっている。


LNGパイプラインの「出口」となる予定のアラスカ南部の街・ニキスキでは、海岸沿いに天然ガス液化施設と海上桟橋の建設が予定されている。


その海岸からはかつて、日本向けの天然ガスが輸出されており、日本への輸出が再開すれば地域の経済に大きな追い風となる。


自身もかつて石油会社の社員として日本への輸出に携わっていたというピーター・ミキチ市長は、「かつてのような日本との商業と友好関係を取り戻し、双方に安定をもたらしたい」と期待を口にする。


関税交渉の切り札になる?

再び動き始めた壮大なLNG開発プロジェクト。


現在の計画では2026年からパイプラインの建設が始まる予定だが、取材した涌井記者は、「事実上見切り発車の色合いが強くなっている」と話す。


ワシントン支局長・涌井記者:
「プロジェクトを主導する会社は、まずアンカレッジまで天然ガスパイプラインを作り、アラスカ内部の需要に応える第1期工事をし、その後2期工事で港まで繋ぐパイプラインを作ると説明している。なので外国の協力なしでも建設を始められると言っているが、海外に輸出することも前提に第1期・第2期という予算を描いているので、見切り発車してから日本も韓国も入ってきてね、という展開が予想される」


ーー難航する日米関税交渉の切り札になるか。


涌井記者:
「日本政府としては現在アメリカ全体からLNGの輸入を増やすことはすでに提案しているが、アラスカの開発に特化して話をしているわけではない。政府としては、もう少し慎重に時間をかけて判断したいが、今後、関税合意の中でLNGはおそらく入ってくる。そのときにトランプ氏が念頭に置いてるのはアラスカだと覚悟して話を進めないといけない」


米国メジャーも“撤退した”プロジェクト

1977年から経産省米州課長などを歴任した細川昌彦さんも、このプロジェクトは「曰く因縁」があると話す。


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「アラスカのLNGのプロジェクトは、80年代、私が現役の時からあった。当時、エクソンなどアメリカのメジャーも参画しようとしたが採算が全然取れないと撤退し、ずっと引きずってきた案件。そういう曰く因縁があって、じゃあ韓国・日本・台湾に頼むよと来た。なのでメジャーがちゃんと参画した上で、日本も協力できるということではないか」


ーーただ、日本としてはLNGが欲しい。同盟国で距離も近い。事業費の分担などが合理的な範囲になれば、積極的にかかわっても良い案件に思える。


細川さん:
「エネルギーの安全保障上プラスにはなるが、大事なことはコスト。台湾や韓国はガス公社なので税金投入がボンボンできる。片や日本は民間企業なので、巨額の負担ができるか。高い物を引き受けて電力料金に跳ね返るということになりかねない。日本が国費を投入してまでやる覚悟あれば別だが、そうでなければ台湾などと歩調は合わせられない」


(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年7月5日放送より)


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