
株高・円安という「高市トレード」は今後どうなるのか?そしてアベノミクスの継承を掲げる高市新総裁に今求められる「供給不足」への対策とは?
【写真で見る】今の時代に「アベノミクスでいいのか」…対策が必要なのは“需要”ではなく“供給”不足
「インフレという火に油を注ぐ」懸念
「何としても物価高対策、ここに力を注ぎたいと思っている」
自民党第29代総裁となった高市早苗氏が、4日の就任会見で真っ先に取り組むと強調した【物価高対策】。
【責任ある積極財政】を掲げ、物価高対策の財源に関連して「どうしてもというときには“国債の発行もやむをえない”」(9月23日党主催討論会)とも述べている。
この発言に懸念を示すのは、マネーマーケットの現場の視点から金融政策を分析する加藤出さんだ。
『東短リサーチ』社長 加藤 出さん:
「困っている家計に急いで救済策を講じるという意味での的を絞った財政支出は、苦しい方が多いから仕方がないと思う。ただ、財政支出で物価対策を大規模にやり続けると、“インフレという火に油を注ぐ”ことになるので本当にインフレが止まらなくなる」
株高の熱狂に「楽観的」との警告
「積極的な財政政策」への期待から、日経平均株価は6日の取引時間中に史上初めて4万8000円台を突破。10日の終値も4万8080円と高値を維持している。
高市氏が財政を拡張しつつ日本銀行に緩和状態をキープさせる政策なら、なおのこと“日本株は魅力的に見える”ということで「海外からも投資資金はだいぶ入っている」と加藤さんはいうが、株高の“熱狂”に死角はないのだろうか。
『東短リサーチ』社長 加藤 出さん:
「国際決済銀行BISが9月に『世界の投資家たちが妙に楽観的』と警告を発した。その背景に、FRBを中心とする世界の中央銀行が金利を引き下げる方向にきて『株は買い』と“リスク資産のブーム”が起きている。一方で、中央銀行が利下げしている国でも長期金利は上昇傾向が見られる。こういう政策をやっていると日本の財政は大丈夫かという心配が実は世界中で起きている。BISは投資家たちは『いいとこ取り』でリスクをちゃんと見てないと心配している」
「インフレ」「円安」さらに進む懸念
「高市トレード」のもう一つの懸念が、急速な円安だ。
総裁選明けの6日からの外為市場では円を売ってドルを買う動きが強まり、9日には8か月ぶりに一時153円台となり総裁選前から6円近く円安が進んだ。
その一因とみられるのが新総裁就任会見での発言。
高市新総裁(4日):
「財政政策も金融政策も責任を持つべきは政府。日銀は金融政策に関するベストな手段を考えて取ってくれる、そういう場所だと認識している」
日銀の利上げ判断への「結構強い牽制」を発したと評する加藤さんは、インフレも円安もさらに進む懸念を口にする。
『東短リサーチ』社長 加藤 出さん:
「中央銀行の独立性を制限するようなニュアンスの発言を、次に首相になるであろう人物が発したことから、金融市場の反応としては『日本のインフレはなかなか下がらない』と。長い目で見て日本のインフレは“高止まり”あるいは“上昇するかも”と。そういう予想では国債金利は上昇していくし、通貨の価値がズルズル下がれば為替レートも下がり円安になる」
「公明党離脱」「米中対立再燃」の影響は?
「株高円安はパブロフの犬的反応」
『三菱UFJモルガン・スタンレー証券』のチーフ為替ストラテジスト、植野さんも高市トレードをセオリー通りの反応だと口にする。
『三菱UFJモルガン・スタンレー証券』植野大作さん:
「高市さんが勝ったことにみんなビックリして、考えてみればサナエノミクスはアベノミクスに似てるよねと。ならば積極財政と金融緩和なので通貨の価値は下がりやすい。なので株高円安という反応だった」
その様相が変わってきたのが、10日だ。
公明党が連立の離脱を発表、さらにトランプ関税を巡り米中対立が再燃し、11日には「151円18銭」まで戻ってきた。
この先の為替の見通しはどうなのか-
植野さん:
「円安への勢いは一旦は抑えられると思う。高市さんが総理になるにしても、公明党と別れてしまうとサナエノミクスの推進基盤は脆弱化するとマーケットは思う。一方でトランプさんがまた中国との関税バトルを始めるとなれば、今度は円側の要因ではなくてドル側の要因で、少しアメリカの株が下がってドルが売られる。恐らく高市トレードの円安6円の半分程度は巻き戻されてもおかしくない」
ただ、潜在的に円高になるような環境ではなく「円安のレベルはキープされる」という見立てだ。
――場合によっては、「玉木首相」などという話も出ているが、そういうことが市場の話題になったりすると…
植野さん:
「円安。玉木トレードだとか、タマキノミクスだとマーケットが流行語を作って、また株高円安が再燃する可能性はリスクとしてはある」
「今の時代にアベノミクスでいいのか」
高市新総裁は安倍総理の信奉者で、アベノミクス的な政策を進めると見られているが、2012年の第2次安倍政権発足時と今では「経済状況」が全く違う。
▼実質GDP成長率
【2012年:-0.1%(10~12月期)】
【2025年:0.5%(4~6月期)】
▼消費者物価指数
【12年:-0.1%(12月)★デフレ】
【25年:+2.7%(8月)★インフレ】
▼日経平均株価
【12年:1万395円】
【25年:4万8088円】
▼長期金利
【12年:0.802%】
【25年:1.695%】
▼ドル円相場
【12年:86円74銭★円高】
【25年:151円18銭★円安】
「今の時代にアベノミクスをやっていいのか」と疑問を呈するのは、国際経営論と経営戦略論が専門の入山さんだ。
『早稲田大学ビジネススクール』教授 入山章栄さん:
「アベノミクスの頃は、要するに需要不足だった。なので需要喚起するような財政支援や金融緩和が機能する可能性があったが、今は逆。インフレで円安で、しかも長期金利も上がってきている中で同じ政策をやっていいのか。今むしろ課題になっているのは、『人手が足りず、需要があっても供給が追いつかない』ということ。その【供給不足にどう対応していくか】が大事」
需要ではなく、供給サイドを強化するためには【企業の生産性向上】が必要となるが、そのために求められることは何なのかー
入山さん:
「生産性は、新しい企業がどんどん出てきて、いわゆるイノベーションを起こしていくことがほぼ全て。もっと“競争を激しくして新陳代謝”を起こして、新しいスタートアップがどんどん出てくる必要がある。日本もスタートアップが出てきていると言われているが、開業率はまだ低い」
2021年【開業率⇒4.4%】【廃業率⇒3.1%】
22年【開⇒3.9%】【廃⇒3.3%】
23年【開⇒3.9%】【廃⇒3.9%】
※2025年版中小企業白書より
入山さん:
「開業率を上げるには、時代に合わなくなってきたビジネスを廃業することが大事だが、日本は長い間生産性が低い企業が市場に放置されている。経営者からは、『そんな冷徹なことを…』という意見はあると思うが、ある程度【健全な競争】は必要。そういう意味では廃業率がかなり低いところでとどまってるのは大きな問題」
アベノミクスを継承するなら「第3の矢」
「健全な競争」は「人件費の上昇」につながり、結果「企業の生産性」も上がるという。
『早稲田大学ビジネススクール』教授 入山章栄さん:
「健全な競争があれば、人がだんだん移動するようになるので会社も給料を上げざるを得ない。今は大手企業を中心に会社がお金を溜め込んでいる状態で、それを従業員に還元しないでアクティビストや株主だけに還元している。労働分配率(企業が生み出した付加価値のうち人件費が占める割合)が長い間上がってないのが課題」
<労働分配率>
▼【大企業】⇒47.3%▼【中企業】⇒74.4%▼【小企業】⇒81.5%
※金融業・保険業は除く
※財務省「法人企業統計調査」を基に番組作成
そして、労働分配率が上がらない背景にあるのが「終身雇用制」だという。
入山さん:
「終身雇用は、従業員を甘やかす仕組みではなくて“会社の経営を甘やかす”仕組み。つまらない経営をして従業員の給料を上げなくても、どうせ辞めないだろうと。良い人材が辞めていけば、『経営やばいかも』ときちんと報酬も払って、緊張感のある経営ができる。賃金が上がればそれが消費に回るので会社の生産性も上がっていく。幸か不幸か日本はこれから人手不足なので、今こそ従業員がより高い報酬を求めて、健全な意味で転職をしていくことが非常に重要だと思う」
――目先の需要を刺激する財政政策や金融緩和だけに進むのではなく、骨太の経済政策を打ち出していく時期だと
入山さん:
「アベノミクスも、<企業の生産性向上>が第3の矢だった。これには先程言った構造改革が必要だが、安倍さんも第3の矢まで手をつけられなかったので、高市さんがアベノミクスを引き継ぐのであれば、この第3の矢をやってほしい」
(BS-TBS『Bizスクエア』2025年10月11日放送より)
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