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「社会の寛容性、個人の自律性を高める社会技術とは?」女性や高齢者が過ごしやすい社会を考える

2025-03-05 08:00:23

一人ひとりの多様な幸せ(well - being)の最大化を実現するため、内閣府SIPでは産官学連携で14課題の一つ、「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」に取り組み、社会の寛容性・個人の自律性を高める社会技術の開発を進めている。本テーマの研究開発では、「子育て世代支援・女性の健康経営の推進」「高齢者・障がい者のいきがい向上」 「孤立しにくいコミュニティ再生による寛容性向上」などに取り組み、課題解決のための社会実装に向けて、調査研究を重ねている。

今回、2日間にわたり、調査研究の報告会とシンポジウムが行われた。先ず1日目に行われた報告会では下記の最新調査結果が内閣府SIPプログラムディレクター、久野譜也氏(筑波大学教授、筑波大学スマートウエルネスシティ政策開発研究センターセンター長)により話された。

・相次ぐ詐欺被害!認知機能低下の高齢者をめぐる新たな資産管理リスクと孤独・孤立

・女性の「瘦せ」願望の意外な世代的広がりと新たな健康課題

・月経・更年期など働く女性の健康課題の解決を阻む企業風土の盲点とは?

・妊産婦の心身の健康づくりのため、実証実験で得られた新たなエビデンス

 

相次ぐ詐欺被害!認知機能低下の高齢者をめぐる新たな資産管理リスクと孤独・孤立

日本は高齢化の伸展等に伴い、認知機能低下の人も増える傾向にある。現在も認知症への不安を抱く高齢者は64%にも及ぶ。これは詐欺被害の増加だけではなく、親が持っている資産が子どもに知られずにういてしまうケースもある。なぜなら、親が子どもに財産の状況を伝えているのは約35%(本人調査)、親の資産の状況を把握している子どもは約35%(家族調査)となっているからだ。

暗証番号を忘れた認知症の高齢者によってキャッシュコーナーが長時間、占領されるトラブルがあっても個人情報の関係で銀行からは福祉関連なども連絡できないというのも問題。詐欺というリスクを低減させるためにも、高齢者の資産管理には臨機応変に対応できる社会を実現することも必要だ。

女性の「瘦せ」願望の意外な世代的広がりと新たな健康課題

成人女性のやせの国際比較(2016年)を見ると、日本が世界一、成人女性のやせが多い結果となっていて、やせているにもかかわらず糖尿病になる人も増えている。

やせている女性が妊娠した場合、低栄養で胎児が飢餓状態となる可能性も高くなる。その結果、胎児期や乳幼児のこの環境因子が、肥満や生活習慣病など成長後の健康や様々な疾患の発症リスクに影響を及ぼすという懸念があると久野氏は説明。

月経・更年期など働く女性の健康課題の解決を阻む企業風土の盲点とは?

ライフコースの観点から、問題はやせだけではなく、月経・更年期など働く女性の健康課題の解決も必要となっている。例えば、生理など女性特有の健康課題がある時、仕事の生産性が5割も低下する調査結果も出ている。これには、男性側の理解を高めることと、大企業だけではなく、日本で多くを占める中小企業の制度を整えていくことが大切だと語る。また、若い時から運動習慣があると更年期の症状が軽減されるため健康的な生活も必須となる。

妊産婦の心身の健康づくりのため、実証実験で得られた新たなエビデンス

妊娠・子育て女性が抱えている課題もある。多くの日本人は妊娠中も運動が必要だということを知らない。アメリカの産婦人科学会は妊娠中の適切なエクササイズが周産期のうつ予防にも効果的と推奨している。日本の場合、妊娠期に運動不足で体力がないまま子育てが始まり、疲れやすくイライラしてしまうという負のスパイラルに入ってしまうことも。更には仕事に家事、育児と母親は自分の健康が二の次、三の次になってしまう人も多い。昨今では潜在的に支援が必要な女性が増えていて、子供の虐待や自殺にまで至る人もいる。このような女性の心の叫びを改善すべく産前・産後ママの運動やコミュニティづくりをサポートする「MOM UP PARK」を自治体連携で提供している。

「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」シンポジウム2024

2日目の「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」シンポジウム2024では「社会の寛容性、個人の自律性を高める社会技術とは」をテーマに開催された。この日、久野氏はこちらの外出・交流を促進する新型モビリティに乗って登場。

【包括的な社会とは】
①多様な個人を受容する「寛容性」と一人一人が主体的に行動する「自律性」を備えた社会
②辛いとき、困難なときに、相談できる、支えてくれる人、とのつながりがある社会

「自律性」を考えた時に辛い時も一人で頑張らないといけないと頑なになってしまうことは、孤立や孤独に繋がってしまうため、②を足していると強調した。また、包括的な社会をつくっていくのには社会全体の行動と理解が必要なこともあり中高生〜大人をメンバーに構成する「世の中ちょっと良くする部」をスタートしたと説明した。

パネルディスカッション

久野氏の挨拶の後、下記のメンバーで「日本の包摂性が低下した原因と今後の改善策を考える」をテーマにパネルディスカッションを開催。

[モデレータ]
唐澤 剛氏(サブプログラムディレクター 社会福祉法人サン・ビジョン 理事長、元内閣官房まち・ひと・しごと創生本部地方創生総括官)
[パネリスト]

 石田 惠美氏 (内閣府SIP サブプログラムディレクター BACeLL 法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士)

駒村 康平氏(慶應義塾大学 経済学部 教授、慶應義塾大学経済研究所ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター センター長)

神田 昌幸氏(大和ハウス工業株式会社 執行役員)

包摂というのは孤独にならない、孤立しないということがとても大切なことで、日本社会全体でこれをどう防いでいくかが大きな課題だ。また、寛容性を上げることも重要。自分と違う人にも優しい社会をつくっていく、若者も高齢者も男女も大人も子どもも障害がある人にも優しい社会をつくっていきたいと唐澤氏は話した。

世帯構成の変化、男女雇用均等法により女性の就労・子育ての考え方の変化があった時代の人が60代になってきた時、ふとおひとりさま、おふたりさまで、このあとどうしよう?という相談が増えたと石田氏。

家族単位のコミュニティが希薄化しているのと、昭和一桁〜令和生まれまでごちゃまぜの価値観の中で生きていると理解できない、理解してもらえないと知らず知らずに孤独・孤立になっていっていると包摂性低下の現状を説明した。

認知症になるとお金の管理能力が落ちてくる。これが一番の問題。75歳以上の高齢者が持つ金融資産は30%もある。260兆円近くが認知機能が低下した人によって保有されていることになり、今後、大きな問題になっていくだろう。

詐欺にあっても認知症を抱える本人は気づかずに家族が気づくことが多い。認知機能の低下は孤立・孤独のリスクをあげ、孤立・孤独が認知機能低下につながるため、悪循環となる。孤立・孤独によりサポートもないので詐欺被害も増える。このようなことをどう防いでいくのかが課題だと駒村氏は説明した。

自治会、町内会等の旧来の地域コミュニティの希薄化は進展の一途。特に、高齢化が進むエリアでは地域コミュニティの担い手確保が深刻な事態となっている。

地域社会における寛容性の向上には、多様な価値観を持った人・集団どうしがお互いに認め合うことが必要。そのためには地域コミュニティの再生・形成を通して様々なつながりを生むことが重要だと神田氏は話した。

孤立・孤独感が高い人ほど、相談しても無駄だからと思い、相談しない傾向がある。一方、孤立・孤独感の傾向が低い人ほど相談する。その相談の中で解決策を見出すことがあり、愚痴を言える関係がある方が幸せでもある。そして孤独にならないためにも有効な「ごちゃまぜ」をどう進めるのか?という点では、編み物、スポーツ、将棋など趣味のサブコミュニティに所属するのがおすすめ。そこに繋げていく活動も大切だとディスカッションが終了した。

全体において、やはりコミュニティという人との繋がりは過ごしやすい社会づくりには欠かせないものだということがわかった。今後も課題におけるさまざまな取り組みが進められることだろう。

 

 

情報提供元: マガジンサミット

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